大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)2144号・昭57年(ネ)2125号 判決
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【判旨】
二本件手形の支払呈示の効力について判断する。
(1) 控訴人富士産商株式会社及び井山孝昭との間では成立に争いがなく、控訴人朴性烈との間では同控訴人作成名義部分を除き<証拠>によれば、控訴人井山孝昭は、控訴人富士産商株式会社が振出し、控訴人朴性烈の裏書記載のある本件手形に裏書をして、これを講掛金支払のため被控訴人に交付したが、この時点では本件各手形の受取人欄と振出日欄とは白地のままであつて、何の記載もされていなかつたことが認められ、(2) <証拠>によれば、被控訴人は本件手形を控訴人井山孝昭から受領したのちそのまま所持していて、各支払期日の直前に信用組合大阪興銀に対し取立委任裏書をして交付し、これは各支払期日(ただし(6)の手形は期日の翌日)に支払場所で支払のため呈示されたが、被控訴人自身は本件手形の右所持中に受取人欄、振出日欄に補充記載をしたことがないことが認められ、(3) 実際に流通している手形に振出日、受取人の白地のものが多く、金融機関はそのような手形の取立委任を受けたときでも、その白地部分の補充をしないのが通常であることは、当裁判所に顕著であり、現に前記丙一号証の二によれば、控訴人井山孝昭が被控訴人に対し裏書交付した控訴人富士産商株式会社振出、額面二〇〇万円、支払期日昭和五五年七月二二日の約束手形については、被控訴人から信用組合大阪興銀に取立委任され、その支払呈示により手形金が支払われているが、この手形について受取人欄、振出日欄は大阪興銀その他によつて補充されることはなかつたことが認められる。他方、(4) 弁論の全趣旨によれば、被控訴人本人が本件訴えを提起した昭和五六年五月二〇日の時点では本件手形の受取人欄、振出日欄には、「新井性烈」、「五五年六月二七日」との記載がされていたことが認められる。
これらの認定事実によれば、本件手形が支払のため呈示された時点では、受取人、振出日の記載は未だなかつたものと推認するのが相当であり、この認定を覆すに足る証拠はない。
控訴人朴性烈は右支払呈示に関し、一度は被控訴人の主張を認めながら、のちにその自白を撤回したものであるが、右自白は右認定のとおり真実に反するものであり、従つて、錯誤に出たものと推認されるから、自白の撤回は有効である。
右のとおり、支払呈示の時点では、本件手形には受取人、振出日の記載がなく、手形要件に欠けるものであつたから、その支払呈示は手形法上の効力を有しないものである。従つて、被控訴人は控訴人井山孝昭、朴性烈に対し、裏書人としての遡求請求をすることができず、被控訴人の同控訴人らに対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
(上田次郎 広岡保 井関正裕)